「自然派」と「エビデンス」の狭間で

「自然派」というスタンス(思想?)があるようだ。
「マクロビ」とか,まさしくそういうヤツ。
うちの保育園が,結構そういうのに傾倒している。
玄米が最高とか,梅醤番茶,発熱したときにキャベツを頭に巻くとか。
こういうのは,いわば「おばあちゃんの知恵」的な雰囲気もあって,「なんかよく分からんが,健康に良さそう」という感じで,受け入れられそうなものもある。
例えば,「発酵食品は良い」とか,「夏(冬)は体を冷やす(暖める)食べ物が良い」とか,そういうのは,「まぁ,そうやろね。」と思う。ちなみに,バナナは,南国の食べ物で,体を冷やすから,朝はあんまり食べない方がいいんだとか。うーん。バナナくらい良いやん,と思うけど。

ただ,園からの「お便り」や園長の話(小言)からは,ときには怪しげな雰囲気も漂ってくる。
例えば,とにかく,「和食イチバン」というゴリ押し加減(栄養価的な科学的な根拠ではなく,変にナショナリズム的な匂いを感じることも)。

他にも,例えば,卵や牛乳は基本ダメ,魚が良い,という話。
以前,こんな話を園長がしてた。
>最近の子供を見てると,ヒヨコみたいに「ピーーーッ!!」って甲高い声を出している子っていますよね。ああいうのを見ていると,「あぁ,あの子卵食べ過ぎたのかな」って思うんですよね。イワシとかの魚はですね,集団行動するんですよ(だから良い)。

え~っと。どこから突っ込んだらいいか分からんけど,マジレスすると,園長の理解だと,「人間の行動は食べたものに似てくる」ってことでいいのか?
この話,他のひとに紹介するたびにドン引きされるんだが,フィクションじゃなくてマジだからね。

マクロビって,だいたいこんなもんなのか?と思って,「イワシ 集団行動 マクロビ」で検索したら,こんなすごいサイトを見つけた。
うん,園長とかぶるなぁ。
http://wellness7755.com/macrobi/cat133/cat226/post_10.html

私たちは食べ物を食べると、その食べ物が持つ気質をとり込んでいきます。

魚を多く食べる人は、理路整然として対立を好まず、あたかも魚が群れをなして泳ぐように、集団を作ったり、また、コミュニティ意識が強くなります。


ただ,まぁ,このくらいまでであれば,実害は無いかな,とも思う。
「そこまで拘る意味はあんのか?」という気はするし,親側にそういう拘りを押し付けてくる鬱陶しさはあるし,動機は何であれ健康的な食事を食べさせてくれる分には,それで健康を損なったりすることは無いだろう。

それが,「民間療法」信仰のレベルにまで行くと,一気にヤバくなってくる気がする。

「キャベツ 発熱」というキーワードで調べると,どこの誰だか分からないような「ママ」が書いた,「香ばしい」記事がズラズラ出てくる。「キャベツ枕」は効果があるというようなことを,ペラッペラの根拠で書いていて,しかも,似たり寄ったりなテイストの記事が山ほど出てきて,相当怪しい。DeNAがキュレーションサイトでデマを拡散しまくって炎上したことも,のど元過ぎれば熱さ忘れる,てな感じで,すっかり過去の話。
そんな中で,「医師監修」として,小児科医が実名で書いている記事が1つあり,それだけが「根拠なんてないよ」とバッサリ切っていた。
https://select.mamastar.jp/220531

こういう「民間療法」を変にこじらせてしまうと,「薬を飲ませず,病院に連れて行かず,キャベツを巻いて熱に対処する」という間違った対処をしてしまうリスクがある。
(なお,ウチが通わせている保育園の名誉の為に言うと,保育園では,熱が出れば病院に連れて行くように言われる。キャベツを頭に巻いているのは,あくまで,親が早引きして迎えにくるまでの間だし,アイスノンを脇とかに挟んで熱を下げる,という処置もしてくれている。)

このあたりのことを検索していると,「ホメオパシー」という言葉を知った。
Wiki引用なのでソースの確かさは微妙なんだが,代替医療というか,エセ医学らしい。
「火傷をしたら,暖める」的なヤバいことをしている自称「自然派」ママもいるようだ。
  「自然派ママが好きそうな単語だけ組み合わせて科学的根拠のある記事を書いてみた」
http://toianna.hatenablog.com/entry/2016/09/09/015916
>ちなみに,この記事,めっちゃ面白いので,読んでみてほしい。最後の締めは,結構シリアスな話ではあるが。

と,ここまで,「自然派」とか「民間療法」の話をツラツラ並べてみたわけだが,こういったものの対極が,近現代の統計学(疫学)や医学だろう。

こういう本が話題らしい。
『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』
https://www.amazon.co.jp/世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事-津川-友介-ebook/dp/B07BNFS5PP
読んでないけど,Amazonレビューを見ると,こう書いてある。

>なぜ健康に良いか・悪いかのメカニズムの話はほぼなく、基本的に統計的な事実として、各食品を食べた人の病気の罹患率の推移が列挙されている。

本当に「すげぇ本が出たなぁ」と思った。
「理屈」はどうでもいい,「結果」が全て,という世界。
統計学が最強の学問である』という本にも,同じようなことが書いてあった。
結構前に読んだのでうろ覚えだが,確か,ペスト流行時,感染拡大の原因が上水道にあるのか,下水道にあるのか,という分析の話だったと思う。
ペスト感染の病理学的(?)メカニズムは分からないが,とにかく,下水道の環境の差で,感染率が違うということが,統計的に推認できた,と。結局,そのメカニズムの解明は,数十年(うろ覚え)を待たなければいけなかったが,それを待たずして,下水道の環境改善という「対処法」を導くことが出来たんだと。
https://www.amazon.co.jp/統計学が最強の学問である-西内-啓-ebook/dp/B00B42SXH0/ref=sr_1_4?s=digital-text&ie=UTF8&qid=1525663430&sr=1-4&keywords=統計学が 最強の

これが,統計学(疫学)の凄さ。「健康」や「疾病原因」のように,多用で複雑な要素,変数が絡んでくる事象に対して,理屈抜きで,因果関係の相関を突きつけることができる。

これを読んだときに,本当に,統計学は(最強かは分からんけども)凄いなぁ,と感心した覚えがある。

※ちなみに,学習指導要領の改訂で,数学ではベクトルではなく,統計が必修になるとか・・・。
反発の声が一部で結構出ているようだが,ほとんど熟読できていない・・・。
暇だったら,きちんと調べてみたいが,そんな日は来るだろうか・・・。

しかし,エビデンスは,本当に万能なのだろうか。
いつも,立ち止まって考えてしまう。

以前,「水俣展」に行ったことがある。
水俣病というものの実態がまだ明らかになっていない初期の段階の映像だったと思うが,役所だったか,企業だったかの偉い人が,原因物質の有害性や発症との因果関係について否定的なことを述べているものだった(水俣展に行ったのは,かなり前のことなのでうろ覚えだが)。それが誤りであり,工場からの汚染物質が水俣病の原因だったことは,のちの調査や歴史が証明している。
このように水俣病などの「公害」の歴史の多くは,「発症(症状)と物質の因果関係は認められない」という「エビデンス」との闘いの歴史だったのではないか。「その時点で明らかになっているレベルでは正しい」ことが,のちの研究で覆されるということは,これまでの科学史の中で,きっと何度も起こったことなのではないか。
水俣のことを考えると,いつも,原発事故や放射能汚染のことが頭をよぎる。「低線量被ばく」が健康にどれくらい悪影響を及ぼすのか,ということについても,「問題ない」という専門家と,「問題だ」という専門家がいる。「問題ない」,「安全だ」という「専門家」の見解は,それはそれでデータに裏付けられた「エビデンス」なのかもしれないが,どうしても,真に信用できない。「水俣のときと同じことが起きるのではないか」という漠然とした不安が払しょくできないのだ。しかし,この漠然とした不安で,被災地を差別することはしたくない。この板挟みの状態に,自分は何ら有効な解決策を見出すことができない。誰か助けてほしい。

1つの見方としては,国策の不都合な真実を隠ぺいしようとするような「御用学者」の説は,正しい科学的な作法(?)によらず,歪められた知見なのであり,「エビデンス」と呼ぶものに値しなかったのだ,「エビデンス」自体の有効性は揺るぎないものなのだ,という反論があり得ると思う。
 実際,「エビデンス」に依拠すること自体を止めてしまっては,それこそ「何でもアリ」になってしまう。それは,まさしく「反知性主義」とでも言うべきもので,「エビデンス」を全て疑え,という態度を自分は採らない。そういうことをやっていると,「自然派原理主義」みたいなことになってしまう。
 ただ,結局のところ,専門家以外の常人にとっては,それが歪められたエビデンスなのか,真正の(?)エビデンスなのかなんてことは,分かりようがないことなのだ。それは間違いない。
 さっき言及した『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』のレビューすら,こんなことが書いてある。引用している論文の解釈がこれでいいのか疑問に感じるところがかなりあります。主な主張として、茶色い炭水化物が健康に良い影響を与えるというものがありますが、そもそも健康的な生活習慣を好む人が茶色い炭水化物をとるのですから、茶色い炭水化物をとる人がより健康なのは当たり前な気がします。このような擬似相関の可能性について、引用しているメタアナリシスの論文でも指摘しています。また、バターが健康に悪いという記述がありますが、引用文献によるとエビデンスレベルは低いですね。いろんなエビデンスレベルの主張が混ざった本ですので、注意深く読み進めるのが良いと思います。

 もうね,どうしろと。
 一体,何を信じればいいんだ。
 
ここまで書いてきて,それでもサッパリ分からない。一体,自分はどうすればいいんだ?

 こういうテーマについて掘り下げてみたいので,ぜひ,一度出身ゼミのI先生に,「健康とエビデンスのポリティクス」というテーマでゼミをやってもらいたい(ウソ)。

※追記
疫学の件、ペストではなく、コレラのことだった。
Wikipediaで「疫学」を調べると載ってる。