幽霊犬の備忘録

某市の職員。政治学を齧りジェンダーや経済思想に関心。

コミュニズム/交換(競争)の効率性についてメモ

とても興味深い呟きを見つけたので、備忘的に思うところを書いておく。 デリーで10年以上働いて確信を持って言えるのは日本と比べたらこの国には「相互信頼」がないんだよな。あるとすれば家族や一族の間だけ。これが本当にあらゆる場面場面で非効率を生み出…

ふるさと納税の問題点(嶋田暁文氏論文への補足)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/chihoujichifukuoka/69/0/69_95/_pdf/-char/ja 嶋田暁文氏のこの論文は、ふるさと納税の沿革や問題点等についてかなり網羅的に書かれていて、とても参考になる。断片的にしか知らなかったことが全体として理解できた。…

「意識高い系」の友人が「自然療法」にハマってしまった

◆大学時代の友人で、「朝活さん」ともひそかに揶揄されていたほど「意識高い系」の女性がいる。 Facebook等を見ていると、大学時代から朝活に参加したり、就職してからはよくわからない異業種交流会※に参加したり、事業構想大学院大学※に行ってみたり、読ん…

SDGsの環境問題偏重について

2021年末の紅白でSDGsが取り上げられたが、やはりそのテーマは環境問題だった。 紅白に限らず、SDGsには色んな要素がある中、環境だけがここまでメディアや行政などで取り上げられるのって「政治色」が見えないからなんだろうなぁ、と思う。 環境という非人…

ドラマ『相棒』と『義母と娘のブルース』における社会運動の描かれ方

ドラマ『相棒』は観てないが、「訴訟を起こした当事者である非正規の店舗のおばさんたちが、あのようにいきり立ったヒステリックな人々として描かれ」た点が問題視されたようだ。 相棒20元日SPについて(視聴を終えた方々へ) | 脚本家/小説家・太田愛のブ…

対話は「有効な手段」なのか「倫理的な使命」なのか

●岩波新書の『SDGs』を読んでいる。 SDGs――危機の時代の羅針盤 (岩波新書) 作者:南 博,稲場 雅紀 岩波書店 Amazon 自治体職員としては、第3章の、「SDGs未来都市」の取り組みがとても興味深い。 住民など様々なステークホルダーとのパートナーシップや協働…

ふるさと納税でコロナ対策費を集めるという「禁じ手」

ふるさと納税(寄付)でコロナ対策費を集める自治体が出始めている。 こういうふるさと納税では、通常、返礼品がもらえない。 これを活用する人の多くが、自分が返礼品を受け取っていないことから、純粋に「良いこと」をしていると認識しているものと思う。 …

『負債論』第10章 中世(600―1450年)要約

・要約が4500字超え。訳者解説で「後半のおもしろさは、ますますその細部にある」と書いてあるだけあって、どの部分もとても興味深く、なかなか削り切らなかった。 ・終盤の「シンボロン」を巡る部分以降は、何度読んでも文意というか流れが読み取れていない…

人事管理を「中心×ゾーニングモデル」から「全体×レイヤーモデル」へ−『都市をたたむ』を参考に

今回は、都市計画をテーマにした『都市をたたむ』という本の着想を、強引に人事管理やジェンダー等の問題に引き付けてみた話。思いつきで突っ走った話なので、多分、結構粗い書きぶりだが、ご容赦頂きたい。 ●『都市をたたむ』での議論役所の職員有志で「読…

『選挙制を疑う』の感想 

『選挙制を疑う』という本を読んでいる。 選挙制を疑う(サピエンティア) (サピエンティア 58) 作者:ダーヴィッド・ヴァン・レイブルック 発売日: 2019/04/05 メディア: 単行本 実は,まだ本文はほとんど読んでおらず,著者による短い結論とあとがき,訳者改…

SOGIとは? 普通の人/普通ではないLGBT という二分論を考え直す

以前、SOGIについて、ノーマライゼーションやユニバーサルデザインと絡めながら記事を書いたことがある。 ghost-dog.hatenablog.com 今回の記事は、これをベースに改めてブラッシュアップしたものなので、せっかくなので、今回の記事の方を読んでもらいたい…

『負債論』第9章 枢軸時代(前800〜後600年)要約

この時代には硬貨鋳造の開始、そして金属塊への全般的転換がみられる。(p.324) ●軍事=鋳貨=奴隷制複合体・度重なる債務危機を軍事的拡大を通じて解決しようとする試みが、「軍事=鋳貨=奴隷制複合体」とも呼ぶべき制度としてあらわれた。鋳貨は、債務危機…

『負債論』 第8章 「信用」対「地金」−そして歴史のサイクル 要約

現代文明の基盤に奴隷制の論理がある一方、公式の動産奴隷の廃棄だけでもめざましい達成とみなさなければならない。そして、どのようにそれが実現されたのか、考えてみる価値がある。そして、奴隷制の消滅は、ヨーロッパだけに限定されない。この事態は、歴…

『負債論』第7章 名誉と不名誉 あるいは、現代文明の基盤について 要約(を目指したもの)

しばらく積読だったが、また再開する。 この章、やや難解というか、多様な事例やテーマが交錯するように議論されてあり、論旨をきちんと追いかけきれておらず、要約もグダグダだが、一旦、適当に切り上げて、先に読み進めることにする。 ・人間性の剥奪が、…

『福岡市を経営する』の感想 -「51対49」を巡る2人の政治家の意見

●『福岡市を経営する』を先日読んだが,立場上,感想はオープンには書きにくい。そこで,匿名のブログにて感想を書いてみたいと思う。 なお,今回の感想は,全体を通してというより,とある1つのフレーズについてのものだ。 福岡市を経営する 作者:高島 宗…

公の業務における「PR」の自己目的化

自治体で仕事をしていると「PRすること」自体が自己目的化している例をときおり見る。 ●前にいた部署では、隣の係が啓発の一環で登録制の市民ボランティアを募っていた。(固有名詞を挙げると身バレするので、「登録ボランティア」と仮称)登録したボラン…

小泉議員の育休取得についての雑感(育休だけを解決策にしてはいけない)

小泉議員が育休を取った際に書いていたが,ずっとアップしてなかった記事を見つけた。 今更だが,アップしておく。 (時機を逸しても内容的には問題ないはず) 育休という「権利」について,これまでいろんなことを考えてきた。 ・育児は「権利」であり,生…

自治体戦略2040構想研究会報告書についての雑感

大学卒業後、10年ほど経つが、出身の政治学ゼミにはときどき顔を出させてもらっている。先日参加したゼミ(ZOOMで実施!)は、総務省の自治体戦略2040構想研究会の報告を読んで議論するというものだった。 この研究会や報告については断片的に知っていたが、…

映画『否定と肯定』を観た感想(ネタばれあり)

Amazonプライムで配信されていて、今更ながら観た。 否定と肯定 (字幕版) 発売日: 2018/06/20 メディア: Prime Video ネタバレ込みで、いくつか感想をば。・印象的だったセリフの1つ。被告のデボラが、勝訴後の記者会見で述べたセリフ。 表現の自由を妨げる…

コロナが流行っていても行政(公務員)は不急の業務をなかなかやめられない

とある自治体で事務職員をやっている者です。 1 不要不急なものは中止・延期となる現状 2020年4月現在,コロナウイルスが全世界的に猛威を振るっている。 他国では,外出原則禁止の措置が取られたりとか。いわゆるロックダウンというヤツ。 日本でも,…

「父親の育児は仕事にも活きて生産性も上がる」なんて言わなくていい

2016年8月にFacebookで書いていた記事だが、こっちにも転記しておく。 ●最近、ワークライフバランスとか、父親の育児とかの話題で「父親が育児に参加した方が、仕事の生産性が上がる!」みたいな議論をときどき目にする。 こういう話は、確かに一見良いと思…

育児=権利の時代 【#もっと一緒にいたかった 男性育休100%プロジェクト】

①平成11年、「育児をしない男を父とは呼ばない」というポスターが厚労省によって作られた。 こんなポスターを作る必要があるほど、当時の日本人にとって、育児は、母親に偏った義務だった訳だ。 何しろ、イクメンという言葉もまだ存在しない時代だ(少なくと…

『負債論』第6章 性と死のゲーム 要約

第6章はなかなか読みにくかった。何より、ティブ族のエピソードの理解が難しい。要約も非常に長ったらしくなってしまったが、あえてこのままで(2300字超え)。 雑にまとめると、要するに、ここでの主張は、「負債の根本には文字通りの「暴力」の存在がある…

反差別の3つの方向性

約半年前にTwitterでフォロワー(後輩)のテルマとした差別に関する議論。 何となくこれは残しておく甲斐がありそうだからブログにしておこうと思いつつ、忘れてた。 今更ながら書き留めておく。 以下、当時の議論。 青がテルマのtweet。 黒が自分。 東浩紀 …

制裁的公表について(明石市の養育費不払の氏名公表について)

養育費不払いは氏名公表 兵庫・明石市、条例検討 | 共同通信 養育費不払いは氏名公表兵庫・明石市、条例検討2019/9/17 18:31 (JST)©一般社団法人共同通信社 離婚相手から養育費を受け取れないひとり親家庭が困窮するのを防ごうと、兵庫県明石市が養育費の支…

『負債論』第5章 経済的諸関係のモラル的基盤についての小論 要約

・交換、負債のモラル的論理は人類学が明らかにしてきた根本的なモラルの原理の1つに過ぎない。(『贈与論』ですら市場経済の論理が侵食しており、現代の社会理論は役に立たない。特に、経済学の占める位置は非常に大きい。)・「互酬性」をキーワードとし…

育休について(その3) 育児は「イベント」ではなく「ルーティン」と捉えたなら、2人目が産まれた際は育休よりも時短勤務が望ましいか?

久しぶりの投稿。 異動してから通勤時間が減って、あんまりブログのネタを考える暇がなく、更新が少ないな。 それはさておき、タイトルのとおり、今回は育休について、また考えてみる。 今回はもうすぐ産まれる2人目の子どもについてだ。 実はこの記事は5…

タダの弊害の続きと『地域再生の失敗学』の違和感

「タダ」の弊害についての呟き - ghost_dog’s blog この前の記事の続き。 地域再生の失敗学 (光文社新書) 作者: 飯田泰之,木下斉,川崎一泰,入山章栄,林直樹,熊谷俊人 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2016/04/19 メディア: 新書 この商品を含むブログ (10件…

「タダ」の弊害についての呟き

80代、老舗のとんかつ屋さん「あたしなんかもう年金を頂いている身でね、お客さんには財布を気にせず腹一杯食べて欲しいんで、多少赤字でもね、創業から値段を変えてないんですわ」40代で中学生2人育ててる同じ町のとんかつ屋さん「意味がわからない 引退し…

『負債論』第4章 残酷さと贖い 要約

・貨幣は商品でもあり,借用証書でもある。コインの表には硬貨の鋳造者である政治的権威の象徴があり,裏には交換における支払価格がある。・物々交換の神話と,原初的負債論の神話は,隔たっているように思えるが,実際はコインの裏表であり,一方は他方を…