幽霊犬の備忘録

某市の職員。政治学を齧りジェンダーや経済思想に関心。

タダの弊害の続きと『地域再生の失敗学』の違和感

「タダ」の弊害についての呟き - ghost_dog’s blog

この前の記事の続き。

 

地域再生の失敗学 (光文社新書)

地域再生の失敗学 (光文社新書)

 

 

この前、自治体職員有志の読書会でコレを読んだ。

 

この本での指摘には概ね賛同で、特に、木下斉さんへの自分の誤解が解けて良かった。

正直、「稼ぐ」ことを強調されると「さもしい」と感じてしまっていた。しかし、木下さんは、「黒字」経営を目指すことが持続可能な生業(なりわい)のためには必須だ、というとても当たり前のことを言っているに過ぎなかった。

当たり前のことを言ってるんだが、その当たり前が駆逐され、補助金が地域経済を歪めているが大きな問題。

 

さて、ただ、気になる点もやはりあった。

当初は言語化出来なかったが、少しは違和感の所在が掴めたので、書き留めておく。

ここからが本題。

 

木下斉さんは、地域再生では薄利多売ではなく高付加価値のビジネスで黒字で稼げという。

商店街では、アサヒスーパードライではなく、そこでしか買えないクラフトビールを売れ、単価を上げろ、と。

(訂正:本で挙げてあったのはウイスキーだった)

ただ、それに消費者がついてこれない、という問題はどう考えればいいのか。

 

アサヒスーパードライどころか、大手資本は格安でプライベートブランド商品を出してくる時代。

それらを買う人の中には、経済的にそれしか買えない人もいるだろう。

「買えない」は言い過ぎかもしれないが、クラフトビールどころか、第3ではない「普通」のビールについて「贅沢品」と認識している人も少なくはないだろう。

 

年金受給世代の格安トンカツ屋を問題視するのであれば、資本にものを言わせて廉価なプライベートブランドを打っていく大企業の方こそ、よっぽど問題視するべきではないだろうか。

 

もっと言えば、件のツイートの老店主のトンカツ屋は、主観的には、ボランタリー精神によるものだ。他方、大手資本のプライベートブランド販売は、単なる経済合理性の世界だ。

 

木下斉さんへの違和感はここにある。

イオンやアマゾンなどには勝てないし、どうしようもない、と切り捨てたその姿勢への違和感だ。

 

木下さんの真意はあの本だけでは分からない。

ただ、木下氏のスタンスが、商店街に対して「今のままじゃ稼げない。ダメだ。変われ。」と言い、老店主のトンカツ屋には「退場しろ」と言う一方で、イオンやアマゾン自身は変わらなくていい、と言うものであれば、その意見には賛同は出来ない。

 

ただ、もちろん、木下さんは学者でも政治家でも無い実践家ゆえ、そういうマクロの提言は守備範囲ではなく、言及しなかったというだけかもしれない。

また、善悪の問題は置いておいて、現実的にはアマゾンを退場させることは不可能なので、その前提に立ったうえで、それでも地域が戦っていく方法を考えたのがあの本、ということかもしれない。

 

木下さんが「アマゾンやイオンの経営も自己努力の結果で何ら非難されるべきところや変わるべきところは無い」なんて明言している訳でもないし。