「そこでしか出来ない仕事」があるのに「イヤならやめればいい」は無いだろ、という話
●今まで考えてきたこと
日本は、メンバーシップ型雇用システムからジョブ型雇用システムへ転換していく過渡期にあるのかもしれない。
経団連が「終身雇用もうムリ」と言っちゃったというニュースも大きく報じられた。
そういう文脈もあって、ブラック企業や劣悪な労働環境などの話題になった時に「転職なり、起業するなりしてイヤならやめればいい」という意見を言う人がいて、それに対する不満をブログに書いたことがある。
これの 4「嫌ならやめろ」を本気にしなくてもよかった時代 の部分。
もちろん、いやならやめられる、という社会が望ましいのは言うまでもない。
だが、それをできる能力がある人ばかりではない、という視点は同時に持っておかねばならない。これまで書いてきたブログの趣旨はそこだ。
ちなみに,それと似たような話で、はるかぜちゃんのこのツィートも感動的だった。
これに勇気付けられた「中で努力している人」は大勢いるだろう。
学校にも企業にも「このルールを変えたい」と、中で努力している人はたくさんいます。子どもでも校則を変えるために生徒会に入り、仲間をあつめ、マスコミに手紙を出し、大人と闘っている人も大勢います。闘う前に辞めるのは自由だけど、闘う前に場を去った人に、そこにいる人を見下す権利はありません
— 春名風花 official (@harukazechan) May 5, 2019
●今回書きたいこと・・・そこでしか出来ない仕事
「能力」だけではなく、もっと根本的な問題がある、というのが今回書きたい話題だ。
何も難しい話ではない。この社会には「そこ(その組織)でしかできない仕事」というものがある、ということだ。
例えば、「A市の市民のために働きたい」と思ってA市役所に入った地方公務員はまさにそれだ。「市民の安全を守りたい」と思って警察官や消防官になった人も同様だろう。
「ブラックな職場なら、やめればいい」というソリューションは、確かに存在するのだろう。しかし、そうすると「こういう仕事をしたかった」という思いを諦めないといけない。
もちろん、民間へ転職し、民間の立場から自分が住んでいるまちを盛り上げるということも当然あるだろう。そういうこと自体は否定しない。(木下斉さんが推す方向)
しかし、公でしか成しえない仕事というのは存在するだろう。例えば、今井照氏が言うような「ディフェンダー」の役割だ。
●労組の役割
当然だが「イヤならやめる」という選択肢が採りえないということは、多少のイヤなことも甘受しなければいけない、ということだ。
ゆえに、公共労組が果たすべき役割は、そこで働くことを前提にしつつ、労働条件の改善を図り、その「イヤなこと」そのものを減らすこと、だろうと思う。当然だが、転職を支援することは想定し得ない。
他方、民間労組の場合、「いやならやめられる」という状況をつくりだし、転職を支援したり援護したりすることこそが、今後のジョブ型における組合の役割として重要になるのではないか。それは、企業別から産業別へ転換しなければいけない、ということにほかならない。それによって初めて、ブラックな職場を適切に「駆逐」していくことが可能になる。
これまでの方向を踏襲して、終身雇用(長期雇用)の死守という考え方も完全には否定しない。安定した雇用というのは、それそのものが重要な権利だ。そして、そこで働くことを前提にした労働条件の改善も必要だろう。しかし、それには限界がある。
そもそも、特定のライフコースが想定されていたメンバーシップ型は、そのライフコースからの離脱者が少なかったからこそ成立したのだし、少数の離脱者の犠牲のもとで回っていたともいえる。しかし、今や、特定のライフコースなぞ過去のものだ(『ライフシフト』の議論)。
かつての企業別労働組合は実際のところ、メンバーシップ型雇用システムとの関連でこそ、うまく機能してきたのだろう。いや、その企業別組合の在り方も含めて、「メンバーシップ型雇用システム」だったと言えるのかもしれない。メンバーシップ型雇用システムは崩壊しつつあるが、かといって、今のままではジョブ型雇用システムは訪れない。このままだと「かつてメンバーシップ型だった何か」という地獄絵図が待っている。
●ジョブ型は本当に可能か?
とは言うものの、本当にジョブ型への移行は可能なのだろうか。
上では、メンバーシップ型雇用システム、とか、ジョブ型雇用システムと書いてきたが、実際は、「日本型福祉」とも言われる福祉制度や税制、大学システムなどを広く包含した「メンバーシップ型社会」とでも言うべきものが形成されている。
ジョブ型社会は、組合や福祉、再就職・雇用を支援する公的なシステムなど、広く色々なパッチがあって初めて成立するものだ。パッチというよりは,広範なクッションのようなイメージか?端的に言って、高負担、高福祉、であって初めて「やめる」というリスクを社会化することが可能になるのかもしれない。
完全に脱線してしまったので、この辺にしておこう。
ジョブ型,メンバーシップ型ということについては,ぜひ,この2つの本を。
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