幽霊犬の備忘録

某市の職員。政治学を齧りジェンダーや経済思想に関心。

制裁的公表について(明石市の養育費不払の氏名公表について)

養育費不払いは氏名公表 兵庫・明石市、条例検討 | 共同通信

 

養育費不払いは氏名公表
兵庫・明石市、条例検討
2019/9/17 18:31 (JST)©一般社団法人共同通信社

 

離婚相手から養育費を受け取れないひとり親家庭が困窮するのを防ごうと、兵庫県明石市が養育費の支払い命令に応じない離婚相手の氏名を公表できる条例の制定を検討していることが17日、分かった。市によると、養育費支払いを巡り、条例に基づいて罰則として氏名を公表する制度は全国初。

厚生労働省の2016年度調査では、母子家庭の場合、離婚相手から養育費を受け取っている割合は24%程度。明石市は昨年11月から、養育費が滞っているひとり親家庭が最大月5万円の援助を受けられる制度を試験導入し対策を進めている。

 

以前、制裁的公表を可能とする条例の執行担当だったことがある。結局、活用はせずに異動したが。

 

また、以前参加した法務の勉強会で、その関係の話題が取り上げられたこともあって、結構このテーマは気になっている。

 

さて、制裁的公表の処分性は法的には否定されるのするのが標準的な見解だろう。

明石市は法務に力を入れているし、法的にも「イケる」と踏んだのだろう。

 

ただ、政策的にどうなのかは議論が分かれるだろう。

 

一口に公表と言っても、公表の精度?でレベルは大きく変わる。誰も見てないような公告なのか、はたまた、ネットで名前が検索されるようなHPでの公表なのか。

 

PDFでの公表か、ベタ文での公表なのかでも、アクセスの容易さが変わる。後者なら、ググればすぐに出てくることにもなろう。

そうなれば、就職においてに氏名公表者は採用されない、などの不利益に直結し得る。

 

氏名公表がどれだけ効果的か(侵害的か)というのは、かように、やり方次第の側面がある。

明石市はどれくらい詰めてるんだろうか。

 

ネットでの公表だと、転載への対処も問題になり得るだろう。

行政側が情報を削除しても、「魚拓」が取らられば半永久的に情報はネットの海で泳ぎ続ける。

 

養育費不払に対して何か実効的な策が欲しいというのは分かるが、この手法がほかの色々な場面で安易に乱用されなければいいな、とも思う。

 

ちなみに、北九州市の森幸二さんは制裁的公表に否定的だった。

自治体法務の基礎と実践

自治体法務の基礎と実践

 

 

なお、制裁的公表は行政法の中でも研究の蓄積が少ないようだ。

以前探したとき、論文と呼べるものは、これくらいしか見当たらなかった。

https://stars.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=253&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1

 

法律レベルでもほとんど想定されてない。行手法には規定はなく、個別法ではいくつか規定がある(消費者安全法とか)。

 

行政処分にはあたらないとしても、制裁的要素はあるし、住民の権利侵害になる可能性は十分ある。行政処分にあたらず取消訴訟の対象にはならなくても、国賠の対象になることは否定されない。

 

ちなみに、消費者庁特定商取引法の執行担当者も言ってたが、営業停止の処分よりも、処分の公表の方が業者には「効く」。

 

駒崎弘樹 ( Hiroki Komazaki )@病児保育入会受付中 on Twitter: "まさに養育費を支払わない恥知らずには限定的な効果しか持ちませんが、養育費不払いが社会悪なんだ、という意識の醸成には寄与するので、明石市に賛同します。 将来的には国による徴収と不払いへの罰則適用を求めたいと思います。… "

 

養育費不払いが社会悪なんだ、という意識の醸成には寄与する

これ、偽らざる本音なんだろうけど、まさしく私刑の世界だよなぁ。

手放しで賛成出来ない。

 

目的は手段を正当化しない。

というか、比例原則に反する。